龍の髭












涸沢に下りた瞬間から、私たちは籠から解き放たれた鳥のように自由で開放的だった
まぶたを閉じて、深く息を吸って、吐いて

新緑の森の清涼な空気に肌をさらして歩いたり、
名も無き支流や尾根に夢中になっては、ふとした瞬間に、
心のずっとずっと奥のほうまで言葉に出来ない何かで満たされてゆくのを感じて足をとめたりと

ひととき、ひとときが愛おしくて、特別で、胸が満タンになるよ
冬のあいだじゅう遠のいていた、
そうそう、この感じ

初めて訪れた場所なのに、
斜陽で木陰の伸びる沢筋に心地よい懐かしさを憶える森
荷を下ろしてからは、思い思いの場所にテントを張って、火の粉を夜闇に散らした
見上げれば木々の間から銀河がまたたき、
時空が際限なく広がり始め、ゆっくりと変容して歪みだす
私は薪のはじける音に身をゆだねた

初夏に訪れた龍の髭の二日間
私たちの匂いと爪痕を残した場所
秘密の旅


***

 青石登山口~目丸山~西内谷龍の髭
ビバーク2days











龍の髭2丁目、3丁目







帰路、涸沢を詰め、登山道へ繋がる尾根を目指す






登山道に合流


グッバイ、またね