思えば遠くへ来たもんだ 本匠 遊歩道エリア




photo by yuka


初めて本匠に来たとき、異様な雰囲気の遊歩道エリアを見て驚いたことをよく覚えている。
山々に囲まれた風光明媚な田舎、緩徐に回る大水車。その風景のなかを静かに流れる番匠川…の上の岩壁を登る…く、く、クライマー。しかもものすごい被ってるぞ。うそ、
こんなところを登るの、と。

遊歩道エリアに初めて行ったのはそれから1年は経っていたはず。振袖という5.10cの短いルートを1日かけて登ったことを思い出す。

そんな私が、遊歩道にある「思えば遠くへ来たもんだ」という、見るからに屈強なクライマー達を終了点でフォールさせているルートを完登する日が来るとは思わなかった。
去年の夏と今春に通って先日RPできた。
ちなみに前週、夫は番匠5.13bを日数かからず登ってグレード更新しました。ぱちぱち。

皆がやってるムーブは私には到底無理で、それでも去年の夏にこれかなと型取ってたムーブを、春になってから地道に掘り下げた。手数をみんなの倍以上増やして、誰も使っていないホールドを掃除して。パワーが足りなくても登れるムーブを作った。
最終ピンでは1~2分のレスト。おかげで、終了点クリップはかなり余裕ができて、ロープを手繰りながら、終わってしまうことを寂しく思った。(それはもう…あほみたいに登りこんだので)

皆んなに出来ることが弱すぎる私にも同じように出来るとは絶対に思えない。
けれども岩はプラスティックと違って、私の身体のサイズ、体力をもって、出来るかぎり歩み寄ることができるから、フィジカルが圧倒的に足りていない私でも考え尽くすことができる。

登山から始まったクライミングだけど、私は両方ともスポーツだと思ったことは一度もない。
他の誰かと強さを競うわけでも比較するわけでもなく、自然の中で自分自身と向き合って、長い長い物語を紡ぐ。

平日は頭の中で何度もムーブを描き、手汗をかいて、週末に向けて気持ちを高めて。
淡々と過ぎる毎日を、クライミングは彩ってくれる。
つらければつらいほど、強烈な感動に出会わせてくれる。
思想的なもの。人生的なもの。

今回、思えばをトライしながら私がクライミングに惹かれる理由をこんな風にずっと考えてた。

グレードに一喜一憂するのは好きじゃないけど、憧れていたラインでグレード更新できたことは心から嬉しかった。(振り返ると2年前に5.11b/cを登った後は、5.11bまでしかトライしていなかった。以前は夫がサポートしてくれたけれども、やりたいルートのヌンチャク掛けは自分でしなければと、当たり前のことだけど思ったから。上手くいかない時もあるけどね。)
何よりリードクライミングの醍醐味のような最高に面白いラインを登りきることができて、凄く幸せだった。
へなちょこな私には不相応なルートだったけれども、今までに何度も何度も落ちたけれども、取りつくたびにどんどんこのルートが好きになって、いつか登りきろうとそればかり考えてた。

思えばの旅は終わってしまったけれども、また何度でも登るんだ。いつかは皆がやってるムーブで登りたい。
これからも、グレードにとらわれず、長くて変化のある、これだっていうルートを、自分らしいムーブで登ろう。